言葉を取り戻す
ヒット商品応援団日記No321(毎週2回更新) 2008.11.30.
この2年ほど多くの過剰を削ぎ落とし、更に削ぎ落としそれでもなお残るものが求められていると、そこにビジネス着眼しなければと書いてきた。前回のもったいない着眼もそうした文脈の中からであった。この十数年、手に入れた豊かさは知らず知らずの内に実は過剰へと向かっていた。そんなことへの見直しが企業ばかりか生活においても始まった。過剰を削ぎ落とし、手に入れた便利さという豊かさとは逆に、失ってしまった何かを探しに多くの回帰現象が生まれてきた。例えば、象徴的に言うと、中国冷凍餃子事件は原点である食の安全への追求であり、家庭菜園のような自給自足的ライフスタイルに向かわせたり、顔の見える農家直売所へと向かわせてきた。それらは外食から内食への回帰として、土鍋や調理器具が売れるようになった。更には、子と一緒に料理を作る道具類、パン焼き器などはヒット商品となったが、一種の家族回帰・家庭内回帰と読み解くことができる。
さて、膨大な量の情報が行き交う中で、この過剰さをどう削ぎ落としたら良いのであろうか。また、情報においても回帰現象が現出するのであろうか。ところで雑誌プレーボーイが今週号を最後に廃刊になる。以前から多くの雑誌の廃刊が続くが、最早情報の送り手が雑誌社の編集者から、受け手である顧客の側へと移っている。その一番の要因はインターネットであり、ブログやyouyubeのように個人放送局化したことによる。勿論、真偽の見極めが難しい、しかも玉石混淆の情報であるが、使い方を間違わなければ十分情報源としての役割を果たしている。
こうした雑誌のなかで、唯一部数をのばしているのが、宝島社が発刊する「インレッド」などの雑誌である。周知のブランドとコラボレーションした「付録付き」女性誌であるが、その付録の新しさに興味を惹かれ雑誌が買われるという構造だ。しかも、デフレ市場となっている市場情況に合わせ、唯一値下げをしている雑誌である。つまり、従来の雑誌販売収入と広告収入によるビジネスモデルとは全く異なる商品発想をしているということだ。極論を言えば、コンテンツである情報を販売するのではなく、物販商品を付録付きで販売しているようなものである。1980年代半ば、チョコを捨てて付録のカード集めで社会問題化し、メガヒットしたビックリマンチョコを想起させるような発想である。もう一つ着実に部数を維持しているのが、「鉄道フアン」のような趣味の雑誌である。ある意味では、専門雑誌というより、超専門、マニアックな雑誌で、従来の専門雑誌の情報は既に一般情報化してしまったということだ。
話は変わるが、少し前に「日本語が亡びるとき」(水村美苗著:筑摩書房刊)を読んだ。英語が地球の共通語になった時代にあって、豊かな近代文学を育ててきた日本語が亡びつつあるという、言葉に生きる作家らしい本格的な警鐘の評論である。著者は創作の傍ら米国のプリンストン大学で日本の近代文学を教えているいわばバイリンガルの人である。であればこそ、母国語・日本語への思いは深い。繰り返し繰り返し国語教育の必要を説いている。示唆深い本であり、是非読まれたらと思う。ちょうど同じように西洋文化の衝撃を受け止めた夏目漱石と社会学者であるマックス・ウェーバーをヒントに、この時代の生き方を書いた「悩む力」(姜尚中著:集英社)も売れている。少し前から、太宰治をはじめ古典といわれる文学書が静かなブームとなっているが、悩むという内省、内なるこころに立ち戻る傾向が出始めていると言えよう。
インターネットが象徴しているように情報技術は驚くほど急速に発展し、地球は小さくなり、同時代性、同地域性という世界が、経済ばかりか知的情報の世界まで拡大した。図式化すると、世界の共通語=英語、国語、地域語=方言という3つの言葉を生きている。
ジャーナリスト筑紫哲也さんが亡くなられた時、天野祐吉さんは「ニュースに声を与えてくれた人」と語っていた。同時に、膨大な情報を整理し、防波堤の役割を果たしてくれていたと思う。多事という情報を争論できるようにしてくれた訳である。言葉は声であり、また文字である。前者の象徴が筑紫さんであり、後者が日本語が亡んでいくと指摘してくれた水村氏であろう。
私は沖縄が好きで頻繁に行くようになった一つの理由が沖縄の文化への興味・関心であった。今、沖縄では三線を使った琉球方言の学習が始まっていたり、古くから伝承されている民話を絵本にし、しかも絵本を読み聞かせるライブも始まっている。亡びつつある琉球文化に文字と声を与えようという試みであろう。足下に埋もれた豊かな情報を掘り起こすということも内省の一つである。今年の6月にはアイヌ民族を先住民族とする国会決議があったが、これからアイヌ文化の掘り起こしが始まり、文字と声を与える動きも始まるであろう。
膨大な情報と私は書いたが、類似化した一般情報による過剰体験から、生活者一人ひとりは内なる情報防波堤を築き、本来の言葉を取り戻しつつあると思う。勿論、情報においても自己防衛的になっているということだ。ビジネス視点からいうと、既存メディアの在り方が根底から変わることを促されているということである。広告、ショップ、商品、人、店頭、プロモーション、インターネット、メール、携帯電話、あらゆる情報発信するメディアの変容が促されていくであろう。(続く)
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