歌が痩せていく
ヒット商品応援団日記No307(毎週2回更新) 2008.10.12.
「歌が痩せていく」と語ったのは、昭和と平成の境目を生きた作詞家故阿久悠さんであった。平成の始まりとと共に、歌謡曲という言葉が消えたという俗説を半分認めながらも、阿久悠さんは「歌謡曲というのはそんなひ弱なものではなく、時代を呑み込みながら巨大化していく妖怪のようなもので、めったなことでは滅びたりはしない」と語っていた。
昭和にあって平成にないものを周知のように阿久悠さんは小林旭に歌わせた。代表作である「熱き心に」の8年後に、「あれから」(1993年)を作詞し同じように小林旭に歌わせている。
心が純で 真直ぐで
キラキラ光る 瞳をしてた
はにかみながら語る 夢 大きい・・・・
純も、キラキラも、はにかみも、夢も、日本人が失ったものであったと阿久悠さんはいうのだが、これらのキーワードは歌にではなく、違ったところで生きている。阿久悠さんがいみじくも語っていたが、日本人が失ったものを探し出すには2つの方法がある。1つが昭和の秋の最後を語ること、もうひとつが平成の春を語ることであると。
これらの詞にまずピンと来るのが、夏の甲子園で活躍した早実の齋藤投手ハンカチ王子であろう。以降、ハニカミ王子石川遼君までの王子ブームとなって生きてきている。王子ブームという社会現象は後者の流れにある。勿論、歌として唯一継承している氷川きよしも後者に入る。「はにかみ」はないが、純で好奇心に真直ぐなキラキラ光る写真家梅佳代(うめかよ)なんかも平成の春を語ってくれている一人だ。
ところで、暗いニュースのなかで、4人のノーベル賞を受賞した科学者に、今なお失ってはいない何かを感じた人が多かったと思う。特に、益川教授は自らおしゃべりだと話し、表敬訪問した文部科学相に対し、受験問題に触れ「選択式の試験問題は考えない人間を育てている。今の教育は汚染教育だ」と。ひときわ異彩を放つ益川教授に、私は「心が純で真直ぐで・・・・・」と作詞した阿久悠さんの顔が重なって見えた。比較するのも失礼だが、4人の科学者は昭和を語る前者の方で、何か「ザ・日本人」とでも呼べるような清々しさを感じた。
晩年、阿久悠さんは「昭和とともに終わったのは歌謡曲ではなく、実は、人間の心ではないかと気がついた」と語り、「心が無いとわかってしまうと、とても恐くて、新しいモラルや生き方を歌い上げることはできない」と歌づくりを断念する。歌が痩せていくとは、心が痩せていくということである。
果たして、平成の歌謡曲は生まれてくるのであろうか。作家五木寛之は「変わる時代に変わらないものは何か」と問い、それは「人間の関係」、目の前にいるその人との関係を大事にすることだ、と語っている。バラバラになった関係が取り戻される時、そこに新しい歌謡曲が生まれるかもしれない。(続く)
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