文化は経済を引っ張っていけるか
ヒット商品応援団日記No310(毎週2回更新) 2008.10.21.
少し前に、東京の地価は昨年から下がり、都心のマンションも下がり始め、近郊のマンションではアウトレット化が始まったと書いた。いわゆる現金で安く買って、安く提供する再販業者ビジネスのことであるが、バブル崩壊後に生まれたビジネスが再度注目され始めた。当時と較べ家電製品や家具付きといったおまけ付きの販売も出てきている。住宅販売戸数は激減していることは言うまでもないが、これが人生で一番高い買い物である都市部住宅販売の現状である。
2年ほど前までは、文化が今後のビジネスを引っ張っていく新たな価値になるであろうと、多くのマーケッターは予測もし、実際ブランド価値の中心に文化価値を置いてビジネスを行ってきた。前回書いた「わけあり」に創業者の生きざまや志しといった人生価値、あるいは匠の技、伝承の手技といった無形の固有価値を「わけあり」として、価格の在り方を見出していた。私もそうした価値論者の一人であった。
こうした価値は、ある意味憧れとしての特権階級の文化的価値であり、何よりも他者との違いを見出せる差別価値としてファッションを中心に広がっていた。その代表的呼称が「ヒルズ族」であったと思う。富裕層は別であるが、そうした価値を量的に担っていた中流層にとって、その象徴がルイ・ヴィトンであり、年一回位のリゾートはバリ島のアマンリゾートに行ってみたいといった世界であった。既に何回かこのブログでも書いてきたので結論だけいうと、中流層の解体により一定規模あった文化マーケットはパラレルな形で縮小した。今、顕在化しているマーケットは趣味やマニアといったコレクションマーケットだけとなった。金融危機により、保有する資産価値が減少するなか、本当に好きで他に変え難いとするマーケットだけである。これが本来のマーケットであり、規模ということだ。それすらもアウトレットで買う時代となった。
ところで、西欧における文化価値はオペラやバレーに代表されるように特権階級である貴族を喜ばせるものとして生まれた。私たちのライフスタイルのルーツ・原型は江戸にある、というのが私の持論であるが、江戸文化は庶民文化である。庶民の楽しみとして生まれ育った歌舞伎は次第に奥女中や武士がお忍びで見に行くようになる。西欧文化が上から下へと伝播していったのとは反対に、江戸文化は下から上へと広がっていったのである。相撲、花火、花見、寄席、俳句、船遊び、浮世絵、これら全て庶民、生活者から生まれたものである。江戸中期以降になるとお伊勢参りという一大旅行ブームが起こるが、江戸を中心とした五街道が整備され、心配なく旅を楽しめた。この五街道は商人が通いつくったものであるが、西欧の道路は全て軍事道路としてあったのとは好対照である。
今、静かな江戸ブームが起こり、日本橋界隈を歩く人達が増えていると聞く。今なお残る黒板塀の老舗を散策しながら、室町砂場で蕎麦を食べたり、あるいは洋食の泰明軒でオムライスを食べるといった具合である。江戸文化と比較されるのが貴族文化の残る京都であるが、町家を散策しながら、先斗町(ぽんとちょう)ではお茶屋さんではなく、路地裏のおばんざい料理を楽しむといった具合である。東京も京都も同じように、今なお残る庶民文化、生活文化を楽しむことのなかに、文化価値を見出しているということだ。
文化とは分かりやすく言えば、道楽、暇つぶしであるが、時間的経済的余裕がないと楽しめない、と言われてきた。しかし、単純比較はできないが、江戸時代には大きな飢饉がいくつも起こり、あるいは火事盗賊も横行していた。「宵越しの金は持たない」と江戸っ子を表現するせりふがあるが、実際は貧しくて宵越しの金は持ちえなかったのである。江戸には福祉やボランティアといった言葉はなく、「お金のある人はお金を出し、力のある人は力を貸す」ということが当たり前の社会であった。今、江戸ブーム、京ブームが起きているが、そのブームの先に庶民生活に残る先人達の知恵や工夫、それらを豊かさとして楽しめる社会を見出していくと思う。
文化は時間が育て、時間をかけて伝播していくものである。知恵や工夫はすぐには文化価値にはなりえないということだ。従来のビジネス感覚、スピード感覚とは全く異なる次元のものである。熟成という言葉があるが、文化の本質を表していると思う。文化は経済を引っ張っていくとは思うが、急がば回れ、である。(続く)
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