時代おくれ
ヒット商品応援団日記No247(毎週2回更新) 2008.3.13.
前回キャンディーズのコンサートについて触れたが、テーマとしては「思い出消費」と呼ばれる広がりがあるだろうかという狙いであった。そこで団塊世代とポスト団塊世代とを比較しながら、時代の気分や雰囲気といったことの共有感の違いについて書いた。
記憶というのは鮮明に覚えているようだが、実は曖昧で不確かなものである。つまり、思い出は何かの「きっかけ」で思い出すことによって「思い出」となる。キャンディーズの30周年記念ライブというきっかけによって「思い出」となる。ただ、その思い出はポスト団塊世代にとっては「私」に収斂し、広がりは見せないであろうというのが主旨であった。
「笑い」もそうであるが、「歌」は時代を映し出す良き鏡となっている。「歌は世につれ、世は歌につれ」ということは古くから延々と現実世界で続いてきたものだ。この十年ほど、歌も他の生活傾向と同様に、多様化が進んでいて、100万枚を超えるメガヒット曲は年々少なくなっている。インディーズは言うに及ばず、YouTubeにも「勝手に歌い」「勝手に広告」といった一種の個人レーベルが出てきている。低迷する雑誌と同じような現象が見られる。
昨年、演歌を含め戦後の歌謡界をリードしてきた阿久悠さんが亡くなった。従来の艶歌、怨歌といった、別れや涙、陰、といった情念の世界を歌った演歌とは少し異なる歌謡曲を数多くヒットさせた作詞家だ。八代亜紀が歌う「舟歌」(お酒はぬるめの燗がいい。肴はあぶったイカでいい・・・・)は美空ひばりに歌わせたかったと亡くなる前に新聞のコラム欄に書いていた。戦後の混乱期に現れた美空ひばり、ともすると荒廃するこころの応援歌を歌う美空ひばりに、今自分が感じた詞を歌わせたかったのだと思う。
多様な好みの時代にあって、演歌の世界で元気な歌手がいる。2004年にデビューした氷川きよしである。デビュー当時、茶髪にピアスといったスタイルで、これが演歌歌手かといぶかしがる音楽関係者もいたが、圧倒的な顧客支持を得て今日に至っている。フアンの7〜8割が女性で、その内ほとんどが中高年の女性達だという。素直さ、気さく、裏表の無い、世俗にまみれていない、こうした人物像を氷川きよしに見ている。一昨年夏の高校野球の「ハンカチ王子」とどこか似ている。以降、ゴルフ界では「はにかみ王子」が出てくるように、「王子ブーム」とどこかでつながっていると思う。
音楽以外の芸能世界を見ていくと更に一つの時代傾向が見えてくる。大衆演劇の世界で熱狂的なフアンを集めているのが、若干16歳の早乙女太一だ。天才女形と言われ、その妖艶な演技にマスコミは「流し目王子」と呼んでいる。
ところで阿久悠さんは亡くなる前のインタビューに答えて、昭和と平成の時代の違いについて次のように話している。「昭和という時代は私を超えた何かがあった時代です。平成は私そのものの時代です」と。「私を超えた何か」を志しと言っても間違いではないと思うが、時代が求めた大いなる何か、と考えることができる。。一方、「私そのもの」とは個人価値、私がそう思うことを第一義の価値とする時代のことであろう。阿久悠さんが作詞した中に「時代おくれ」という曲がある。1986年に河島英五が歌った曲だ。「・・・はしゃがぬように、似合わぬことは無理をせず、人の心を見つめ続ける時代おくれの男になりたい」というフレーズは、40代以上の人だと、あの歌かと思い起こすことだろう。昭和という時代を走ってきて、今立ち止まって振り返り、何か大切なことを無くしてしまったのではないかと、自問し探しに出るような内容の曲である。1986年という年は、バブルへと向かっていく時に当たる。バブル期もそうであるが、以降の極端な「私」優先の時代を予知・予告してくれていたように思える。
今、「王子ブーム」と呼ばれる世界が希求されているが、阿久悠さんが立ち止まり、無くしかけていた「何か」につながっているように私には思える。その「何か」とは、素の世界、ありのままの世界、既に死語になってしまっている「純粋さ」のように思えてならない。
阿久悠さんの「時代おくれ」ではないが、過去の「何か」を探しにいく回帰市場も大きな潮流としてある。同時に、世俗やテクニックを削ぎ落とし、最後に残るもの。そうしたピュアコンセプト、素の魅力が求められている時代だ。(続く)
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